Pop'n music

□砕かれたマリンブルー
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足元に咲いていた花がクシャ、と音を立ててあっけなく潰れた。
ああ、可哀想なお花さん。そんなベタなことは思わない。感じている暇はない。
ひたすら視界に広がっている今の現状に不似合いな明るい春景色を目にやって感傷に浸れば、今自分のしていることに後悔が生まれてくる。
これで本当に良かったのか、否、自分は本当はこんなことしたくないなんて悲劇のヒロインにでもなったかのような自分に嫌気が差しながらも私は彼に最後の笑顔を向けて言葉を紡いだ。







『だからね、ノクス。……別れようか。』
「…さっきから何をいってるんだ?」
『別れ話以外の何でもないわ。』
「…ハッとんだ冗談言わないで欲しいな。君は僕の女だ。」
『…これが冗談にみえる?』


真剣な顔つきで彼を改めて見つめると彼の瞳のアクアマリンブルーが哀しそうに私をみていた。
きっと私もそんな瞳をしているんだろう。
とても見ていられなくて目線を逸らした、がそれは強い力によって阻まれた。


「君は僕の女だ。」
『もう違うわ、ノクス。』
「僕は認めてない。僕は名無しさんを愛して『さよなら、ノクス。』


そして私も左手で彼の頬を叩いてその力を阻み、彼から去ってゆく。
重く鉛と化したような足に力を入れて今は貴方に背を向けるの。向かい風が髪を引っ張るけれどそれでも私は逆らって歯を食いしばった。
彼の元からどのくらい走ったのだろう。一秒一秒、一歩一歩がとても長く、遅く感じた……。







perdu…







「名無しさん……。」

ただ、ぼうっと立っていた。
何も感じない。頭は何も考えていない。
いや、感じている、頬の火照りと微弱にしびれるような痛み。
愛した女の恋人としての最後の言葉がさよなら、なんて。
なんて、虚しいんだろう。

ぴりぴりしている右頬に左手で触れた。
小さな光に目をやる。


「…あぁ。君は嘘を吐いていたね。馬鹿だなぁ……名無しさんは。」

僕があげた指輪、きちんとはめられていたのを知ってたよ。さっきも僕の頬を叩いたその手にはめてたよね。



「別れるだの何だの言ってた割には随分と哀しい瞳で見るんだね、君は。」



自分の左手の薬指。そこには彼女と同じ指輪。
彼女も未だはめたままになっているであろう、その指輪にそっと唇を落とした。
きっとまた、彼女が帰ってくるなんて都合の良すぎた期待をする僕を馬鹿だと嘲笑ってくれ。




砕かれたマリンブルー
(ねえ、なんで泣いていたの?)







end.
 

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